癖っ毛侍

それでも、天然パーマで生きていく。

盲腸事件

こんばんは、ダイキベイダーです。



人は時にとんでもない試練を迎えるものですが、僕の知る限り人生最大の試練は盲腸になった時でした。



社会人2年目のある夜、その日は新しく発足した仕事が忙しく、朝からバタバタしておりました。


2年目のペーペーのくせに「なるはやで」を連呼し、社内を小走りで移動していたくらいでした。


ただ、前日からみぞおちのあたりがキリキリと痛むといった症状に襲われており、「はっは〜ん、これが社会人のストレスですか」と鼻くそをほじりながら思っていたことをよく覚えています。



ただ、その日の昼になると、突発的な下痢に襲われたような痛みがへその下に感じられ、何度トイレにかけこんでも何も出ないという症状になっていました。



いつになったらこのウ◯コ出るんだよという苛立ちに駆られると同時に、会社の先輩から「顔色悪いよ」と指摘されるほどにまでなっていた僕は、午後2時ごろ病院に駆け込みます。



「先生、お腹がめっちゃ痛いです。」



腹部に手を当てたり、熱を測ったりした後に下された診断を僕は今も忘れることができません。


「糞詰まりですね」


そうか、なるほど。強情なウ◯コがいるだけか。


便秘薬を貰った僕は、腹部に洒落にならないくらいの痛みを抱えながら会社に戻ります。



仕事に没頭していると、色んなことを忘れられるものです。

プライベートのこと、読みかけの本のこと、見たい映画のこと。

そんなことも全部忘れて仕事に没頭する僕ですが、腹の痛みだけは忘れられません。



定時を超え、先輩からの飲みの誘いも断り、仕事を続けます。



気付けば同僚は皆帰宅し、会社には僕1人となっていた夜の12時。



ついに僕は思います。



この腹痛、そろそろやばいんじゃないか。




仕事も一段落していたので、後の仕事は明日に回そうと考えながら、なんとなく盲腸セルフチェックというサイトを見ます。




4つ以上当てはまった人は今すぐ病院へと前置きのある診断において7つ全てが当てはまるという快挙。



学生時代から勉強の出来なかった僕。



小学生時代以来の満点です。




おいおい嘘だろ、と疑いながら何度セルフチェックを試してみても満点を叩き出す僕。




こ、これはやばい!ということで近くの大きな病院に即電話


女の人が出てくれました。


「あのぅ、盲腸っぽいんですが。」




「はい?」



まさか聞き返されるとは思わず、さらにテンパる僕。

「いや、あの、昨日からお腹痛くて、今調べてみたら盲腸っぽいんですが。」



「え、ああ、そうですか。ちょっと待ってください。」




1分ほど待たされて別の女性が電話に出てくれました。



「ちゃんと診断したいんですけど、救急車が出払ってて、申し訳ないですけど自分で来れますか?




「え?自分でですか?…分かりました。すぐ行きます。」



すぐさま会社を出て、会社まで乗り付けていたマウンテンバイクにまたがり病院に向かう僕。



一漕ぎするたびにジンジンとお腹に痛みが広がります。



これ、本当に盲腸だったら俺すげーなと思いながら立ち漕ぎして病院に向かう僕。



ひーひーふーで呼吸を整え、病院に向かって走ります。


10分ほどで病院に到着し本来救急車の出入り口であるはずの通路に自転車でピットイン。




長い病院の歴史で自転車で救急救命口に乗り付けた病人は僕くらいじゃないでしょうか。


病院に入ると即座に診断が行われます。

レントゲン、血液検査、エコー検査。

その間も激痛は続きます。

30分程度診断が行われ、先生がサラッと言ってくれました。




「盲腸ですね。今から手術します。」





だと思ったよ!!!



叫びたい衝動を抑え、あえて深刻そうに頷く僕。



見てるか、そこの看護師さん。



多分さっき会社から電話した時に出たのアンタだよな?


アンタが救急車を断った男の子、本当に盲腸だったのに自転車でここまで来たぞ。



先生「それにしてもすごいね。自転車で来たんだって?」



あの人が来いって言ったからだよ!!!


とは流石に言いませんでしたが、少しはその罪を重く感じて貰いたいと思い「え、ええ…」と必要以上に痛そうな顔だけしておきました。



2時間後には手術をしてそのまま入院という手筈になったのですが、もちろんその時の僕はスーツ姿でお泊まりグッズなんてありません。


ふと先輩に飲みに誘われていたことを思い出し電話をしてみるとすぐに出てくれました。


5人ほどの先輩達で飲んでいたそうで、夜も遅くお酒が回っていたところだったので仕方がないことですが「うぃ〜!今ダーツバーで飲んでるー!いえーい!お前はよ来いやぁ!!ギャハハ」という声には少しイラっときました。




盲腸であること、この後手術をすることを説明すると「え!?マジで!?おい!今から手術するんだってよ!マジマジ!盲腸だってよ!いやマジだって!あはは!あはははは!いやいやどうもマジっぽいよ」という声が聞こえてきて少しイラっときました。



でも、持つべきものは先輩です。

その後すぐにベロンベロンの状態で病院に駆けつけてくれた先輩達。


水色の病人服を着ている僕を見て一通り爆笑したのちに、僕の一人暮らしの家まで行ってお泊まりセットを持ってきてくれました。


本当に感謝しかないです。感謝しかないのですが、お泊まりセットを用意するついでに僕の部屋のエロ本を勝手に持っていったのは許せない。



その後、無事に手術は成功してすっかり健康体になりました。


そういえば手術の日、たまたま研修医が数名いて虫垂炎(盲腸)の触診を行いたいということで僕のお腹を1人ずつ触りにきました。

俺、医学の未来に役立ったんだなと感じた時に盲腸になった自分が少し誇らしかったことを覚えています。





術後、すぐに元気になったのは良かったのですが、仕事が忙しすぎて手術してから2日後に出社したのも今となっては良い思い出かもしれません。




でも、よくよく考えるとそのあたりからですかね。


会社を嫌いになったのは。






人は時にとんでもない試練を迎えるものです。

いついかなる時にどのような試練を迎えるかなんて誰にも分かりません。

僕から言えることは、そうなったときの備えとして部屋のエロ本は見つけにくいところに常備するべきだ、ということです。